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アトラクションデイズ

  なんでとか、そんなの関係無い。ただ君が、笑うだけだから。
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2009.04.08  <<13:19



次の日の、同じぐらいの時間帯。
夏実と会ったあの場所に、猫のナツをつれて陽太は行ってみた。
どうしてこんなところへまた来てしまっているのか、
自分でもばかげていると思うのに、足が勝手に走り出す。
当たり前の事だが、あの場所に夏実の姿はなかった。
夏実のいない廃墟の屋上は、美しさをなくしてただ悲しく虚しくそこに有るだけだった。
陽太はしばらくその場に立ち尽くしてナツの、にゃあ、という声で我に返った。

「だよな、いるわけねえよな」

ははは、と力なく一人で笑って陽太は、屋上のフェンスに近づいた。
ふ、と下を見ると夏実の血であろうか、赤い液が僅かにシミのようになって残っていた。
陽太はフェンスに片手の指を絡めてその向こう側の景色を見た。
昨日、夏実が見ていた景色。それは灰色の町が真っ暗な闇に飲み込まれていく、そんな光景。
陽太はそれに対して少し恐怖を感じた。
自分らが普段暮らしているこの町は、こんなにも恐ろしく見えるのかと。
夏実には、夏実のあの瞳にも同じような景色が移っているのだろうか。

「・・・陽太・・?」


不意に声が聞こえて、陽太は振り返った。
そこには不思議そうな顔でこちらを見ている夏実がナツを抱えて立っていた。

「あ」

陽太は驚きのあまりそれだけを零して、後はただ突っ立っていた。
何か夏実が昨日よりも綺麗に見える、と思ってしまう。
月明かりに照らされた白い肌とか、長い睫毛とか細い肩とか、澄んだ瞳とか。

「・・・・・どうしたの?」

突っ立ったままの陽太に夏実はまた不思議そうな顔をして小首を傾げた。
陽太は、あ・・ああ、と声を零しながらも、何で動揺するんだよ、と自分を罵った。

「陽太も何か忘れ物?」

夏実の問に陽太は、え?、と言った。
また夏実に会えると思って、とか口が裂けて死んでもいえない。
夏実はナツをおろすと、フェンスの方に近付いて何かを拾った。

「俺は・・コレ」

夏実は白い運動靴を陽太に見せて、昨日脱いだままだったから、と呟いた。
そしてそれを裸足の足にそのまま履いて、またナツを抱き上げた。

「・・って事は、ここまで裸足で来た訳?」

陽太の言葉に夏実は、そうだけど、何でそんな当たり前の事聞くの、と言った具合に夏実は答えた。
それって痛いんじゃない、と聞いたら、別に、と帰ってきた。
昨日も怪我してても他人事のようだったし、こうしてみると夏実は地に足がついてないみたいに
ふわふわした存在のように感じれた。
今にもどこかに飛んでいったり、すう・・って消えてしまいそうな気がする。

「裸足で歩いてないと、わからなくなるんだ」

夏実はフェンスに近付き、また昨日のようにそこに座った。
ごろごろと喉を鳴らすナツを撫で付けながらどこか遠くを見るような目で自分の足を見つめた。

「自分がちゃんと生きてるか分からなくなる・・・って別に生きてなくてもいいんだけど
・・でも突然、怖くなる。どこかに連れて行かれてしまいそうな気がする」

だから今にも消えてしまいそうだ、と感じてしまうのだろうかと陽太は思った。
死んでいるのか生きているのか、分からなくなる。
そんな事考えたことも感じたこともなかった。突然夏実が違う世界の人のように感じてしまった。

「だから靴もいらないんだけどね」

夏実は履いた靴をまた脱いで、傍らにきちんとそろえて置いた。
フェンスにもたれてナツを撫でながら夏実は陽太を見上げた。

「ほんとは、ナツと陽太に会えるかなって思って来てみた」

ふ、と不意に薄い微笑を浮かべて夏実が呟いた。
陽太はまた突っ立ったまま、自分が死んでもいえないと思ったことを平気で言ってのけた
夏実をただ凝視した。
何でこんな風に胸が締め付けられるのか、分からない。
陽太は戸惑っていた。止めどなく流れてくる訳の分からない感情と目の前の人物とに。

「・・・・寒い」

陽太から目線を外して夏実が消え入りそうな声で呟いた。
裸足のまま転がっている夏実の足が、恐ろしいくらいに白く見えた。

「・・何で、そんな」

口が勝手に動いた。夏実がこちらを見てくる。
自分でも何を言おうとしているのか分からない、のに言葉が出てきてしまった。

「・・・・・・何でそんな泣きそうなの?」

陽太が言う前に、夏実が聞いてきた。
陽太はただ目を丸くして、え、と声を零した。
夏実が立ち上がって、陽太に近付く。

「俺の所為?」

不安そうに夏実が呟いた。
その悲しげな表情に、陽太は本当に泣いてしまいそうになった。

「ごめん・・ね?」

戸惑いながらも謝ってくる夏実に、一瞬だけ変な感情を抱いた。
その瞬間、気付いたら夏実を抱きしめていた。
それがなぜか自分でも分からない。分からないのに、離せずにいた。

「謝んなよ・・お前の所為じゃねぇよ」

自分の声が酷く情けなく感じた。
陽太の腕の中で驚きながらもおとなしくしている夏実、じゃなくて、多分自分の所為だ。
にゃあと二人の間で苦しそうに鳴くナツ。
ただ、弱くてごめんな、と意味もなく呟いて、陽太は夏実をぎゅっと抱きしめたのだった。
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No.16 猫より純情、空より過剰 3 / 連載 / Comment*0 // PageTop▲

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魔月 霰

Author:魔月 霰
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真面目そうな顔してて頭の中は超腐ってます。
一応十代だが年より老けてると言われる。

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